12.3. DNA鑑定と法医学
https://gyazo.com/8d24df53276d2b30a55a8a85fb213bbe
DNA試料を分析して同一人物に由来するかどうか決定する技術 犯罪現場の操作や法的な手続きを目的とした証拠の科学的分析
ゲノム上の個人によって異なる塩基配列部分
遺伝子の内部にある遺伝的マーカーと同様に、非翻訳領域の遺伝的マーカーも、赤の他人に比べて血縁関係にある人のほうがよく一致する
https://gyazo.com/de3f063d4dcf710c2c211fcff40cb3b1
1. まず、犯罪現場、容疑者、被害者などから採取された証拠物件からDNAサンプルを抽出する
2. 次にそれぞれのDNAサンプルから、選択した選択した遺伝的マーカーのDNA領域を増幅して、大量のDNA断片の試料を得る
3. 増幅したDNAマーカーを比較して、どのサンプルが同一人物に由来し、どのサンプルが固有のものであるかを立証する
殺人事件の捜査、親子鑑定、古代人のDNA鑑定
1986年に犯罪捜査にDNA鑑定が導入されて以来、科学捜査の標準的な手法となり、多くの有名な事件で決定的な証拠を提供してきた
DNA鑑定により、シンプソンの車にあった血痕は被害者のものであり、犯罪現場に残された血液はシンプソンのものであることが証明された
しかし、陪審員はDNA鑑定の結果だけでは容疑者に有罪を宣告するには不十分とし、シンプソンは無罪となっている
ビル・クリントン大統領はモニカ・ルインスキーとの性的な関係を繰り返し否定したが、捜査の過程でDNA鑑定により彼女のドレスに彼の精液が付着していたことが証明され、クリントン大統領の弾劾につながった もちろんDNA鑑定の結果は無罪を証明することもある
死刑を含む240件以上の有罪判決事件について、潔白を証明するのにDNA鑑定が活用されている
これらの事件の1/3以上で、DNA鑑定により真犯人が特定されている
DNA鑑定は犯罪の被害者の特定にも用いられる
歴史上、被害者の特定に用いられた最大の事件は2001年9月11日の世界貿易センタービルへのテロ攻撃
2万体以上のぎせy差の遺体の断片の照合を行った
被害者の組織が入手できない場合は、近親者の血液が用いられた
DNA鑑定は父親論争の決着にもつかわれる
密輸された動物の製品の由来について決定的な証拠を提供するkとおから、DNA鑑定が絶滅にひんした生物種の保護にも役立っている
2007年にシンガポールで差し押さえられた象牙が、DNA鑑定によって禁猟区で密猟されたことが判明し、法務執行官による監視強化に役立っている
現代のDNA鑑定技術はかなり劣化したDNA試料でも実施することができる
進化の研究では、古代のミイラ化した遺体や3000万年前の植物の化石から採取されたDNAの断片の分析に用いられている
2005年には2万7000年前のシベリアのマンモスから採取されたDNAが現代のアフリカゾウのDNAと98.6%相同であることが判明した
イギリスのチェダー渓谷の洞窟から発見された9000年前の白骨体「チェダー渓谷の男」のDNA鑑定では、チェダー洞窟からわずか0.8kmの地点に現在棲んでいる学校教師の約300代前の直接の先祖であることが示唆された https://gyazo.com/453d6d4f1abed21ebe0f67a3dc060a0d
DNA鑑定技術
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
DNA鎖の特定の領域について、迅速かつ正確にコピーを作る技術
PCRを行うことにより、微量の血液や組織からもDNA鑑定を行うのに十分なDNAを得ることができる
PCRの原理は単純
加熱・冷却サイクルの間に、各々のDNA分子の特定の領域が複製されて、DNAの量が2倍になる
https://gyazo.com/a0b16be092033fd279d8654b975170e7
https://www.youtube.com/watch?v=2KoLnIwoZKU
自動化PCRの重要なポイントは、非常に高温安定性の高いDNAポリメラーゼ 当初は熱温泉に生育する原核生物から単離されたものが用いられた 通常のタンパク質とは違って、この酵素は加熱・冷却サイクルの加熱段階に耐えることができる
自動化PCRを用いることにより1分子のDNAから始めて数時間の間に数千億コピーのDNA分子を合成することができる
マイクロサテライト(STR)解析
2つのDNAサンプルが同一人物に由来することをどうやって証明すればよいか
ゲノム全体の比較は膨大な時間と費用が必要
科学捜査官は通常は遺伝子をコードしていない領域にある反復DNAを多数比較する
ゲノム中に多数のコピーが存在する塩基配列
ヒトの遺伝子の間の領域の多くを占めている
反復DNA配列の中の、多数の短い繰り返し配列
ある領域ではAGAT配列が12回繰り返し、ある領域ではGATA配列が35回繰り返しているといったように存在しているが、他の人では同一の領域には同じ繰り返し配列が存在していても繰り返しの回数が異なる場合が多い
このような反復DNAの長さ(繰り返し回数)は、遺伝的マーカーと同様に赤の他人に比べて血縁関係にある人の方がよく一致する
ゲノム中の特定の領域のマイクロサテライト配列の長さを比較することによるDNA鑑定法
最も一般的なSTR解析では、ゲノム全体に散在している13領域について、特定の4塩基の繰り返しの回数を比較する
それぞれのSTR領域では、4塩基が連続して3回から50回繰り返されており、個人によってその回数が大きく異なっている
実際に標準的なマイクロサテライト解析に用いられるSTRには繰り返し数に80通りもの変化が存在するものもある
米国では、それぞれのSTR領域の繰り返しの数が、連邦捜査局(FBI)によって運営されているCODIS(統合DNA検索システム)に登録されている
2つのDNAサンプルについて考える
https://gyazo.com/b284f80eafcaaa9b65141978b696a2e0
第二の領域では繰り返し配列の回数が異なっている
ゲル電気泳動
別々の場所から得られたDNA断片をゲル電気泳動法により分離する過程
https://gyazo.com/88013ea358dfee929b46abce730d3c5a
分子ふるいの役割を果たすゼリー状素材でできた長方形の薄板状のゲルの一端に刻まれた孔に、各々のDNAサンプルを注入する
DNAが注入された側のゲルの端に陰極を装着し、ゲルの反対側に陽極を装着して電流を流す
ヌクレオチドに含まれるリン酸基(PO4-)のためDNAは負に荷電しているので、DNA断片はゲルの中を陽極に向かって移動する ポリマー繊維が絡み合うゲルの中では、長いDNA断片は短いDNA断片よりもゆっくりと移動する
そのため、時間とともにゲルの中で低分子のDNA断片は高分子のDNA断片よりも先に進んでいく
こうしてゲル電気泳動により、DNA断片は長さによって分離される 電流を停止すると、ゲルの中の各々のレーンに一連のバンドが現れる
このバンドはDNAを放射性同位体標識してあれば写真フィルムに感光して見ることができるし、DNAを蛍光色素で染色すれば蛍光により観察できる
https://gyazo.com/05e19c058548a05a93ae624608653d9e
バンドの位置の違いはDNA断片の長さの違いを反映している
このゲル電気泳動の結果は、犯罪現場に残されていたDNAが容疑者のものではないことを示す証拠となっている
RFLP分析
ゲル電気泳動法はマイクロサテライト(STR)分析の他にも様々な目的で利用されている
ゲル電気泳動法の応用例の1つ
この分析法では、比較するDNA分子を制限制限酵素により処理し、生じた制限酵素断片をゲル電気泳動ほうにより分離して観察する
https://gyazo.com/1abd7f187969e0ca3f24d8fcd4f6961f
バンドの数と位置により、元のDNAサンプルに含まれる制限酵素切断部位の塩基配列が同一であるか否かを判定することができる